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●西部ピアノ「特選コラム」雑誌カンパネラ記事より

2.調律が必要なのはなぜ?
 

ピアノの世界を身近に楽しむためのあれこれをご紹介するシリーズの第2回目。
一見、何の手を加えなくてもそこに静座し続ける、堅牢そうな楽器「ピアノ」に、どうして繊細な調律が欠かせないのか、ピアノの内部に何が起こっているのかを探ってみよう。

  1. 調律師の学校がオープン、その目指す姿とは?
  2. 調律が必要なのはなぜ?
  3. どこに置くのがいいの?
  4. 備えあれば憂いなし!
  5. ピアノとともに夏を乗り切ろう!
  6. 良いピアノ・ドクターを選ぼう!
  7. 調律の手順を知っておきたい!

 「クラリネットが壊れちゃった」という歌はあっても、「ピアノが壊れちゃった」という話は、めったに聞かない。「なんだか音がヘンね」ということはたまにあっても、家庭のピアノは何も言わず、何年でも静かにそこにいる。だからといって、どうもピアノ自身はそれで満足しているわけではなさそう。本当は大変なことになっている。

ピアノの悲鳴に耳を澄ますと

 ピアノは、鍵盤をたたくとその力がハンマーに移り、ハンマーがピアノ内部に張られた弦を叩くと発音する、いわゆる打弦楽器だ。当然、内部に鍵盤数だけの弦が張られている。今回の取材で一番驚いたのは、その弦1本には90kgの張力がかかっていて、ピアノ全体では90kg×220〜240本=約20トンの張力を支えているということだった。これは電車の車両1両をつっているのと同じことになる。人でいうなら、背中を突っ張って重い荷物を持っているのと同じこと。時間が長くなれば背骨に痛みが出るように、ピアノではフレーム、響板に大きな負担がかかるのはさけられない。フレームにひびが入ったら、それは人でいう心臓病と同じで、悪くなったら移植(交換)しかないそうだが、新品を購入するのと同じくらい大ごと。響板に隙間ができることもあるという。だから、ピアノの上にいろいろなモノを置く人が多いけど、実はピアノはひそかに悲鳴を上げている。モノを載せるなど余分な力を加えると張力のバランスが狂い、蝶番にゆがみがでて雑音の原因になったりするからだ。
 静かに悲鳴をこらえていたピアノが、突然大声で叫ぶ、それが「弦切れ」だ。 原因は不明解だが、長期あき年数によるほったらかしがその大部分であり、稀に調律士の技術不足もあるらしい。長期あき年数とは、調律しなくなってからの年数のことで、4〜5年でひどい状態になることもあるという。長年90kgの力が一番かかるのが弦を張っているブリッジのところで、1点で支えるため、常に弦がつぶれて細くなった状態でいる。年数が経てば経つほど一触即発で切れてしまう。さらに深刻なのは、弦自体が切れたとしたら、弦だけでなくほかの部分の状態も相当悪いということだ。たとえば、ブリッジはその間の弦が張り詰めていることによって澄んだ音がするが、張力がかかり、なおかつ湿気、乾燥を繰り返すうちに、内側に緩んだり、へこんだりと変形してしまうこともあり、そうなると作り直さないといけない。この辺は弦楽器と同じだ。西部ピアノのゼネラルマネージャー坂井さんは「お客様はそれを理解していない場合が大変多い。調律師は、お客様にどんな状態になっているかわかってもらうために、見てわかるようにしてあげるのが親切だし、必要なことです」と言う。

では痛んでしまったらどうするか

 その治療は、人の腰痛治療とよく似ている。痛い腰をいっぺんに引っ張らずに、様子を見ながら徐々に治すように、ピアノも当然何回かに分けて治療することになる。たとえば、4〜5年あけたピアノなら、まず第1回目の調律で伸びた弦の張力をいきなり90kgには戻さずに、まず70kgに調整する。しばらくすると、それがまた伸びるので、2回目の調整では80kgに。そして1年後、また伸びた弦を90kgに調整し、弦の張力が安定したら、その後は通常の1年に1度の調律でOK。この時、もろくなっていたブリッジにかかっていた弦のポイントを少し移動することで、負荷のかかる位置がずれるように細心の注意を払って調律が行なわれれば、弦切れという事態は免れることができる(なお、古い弦はそれ自体が切れやすくなっていて切れることも十分ある)。

そうならないためにも、1年に1回、できれば2回の調律を

 素人判断でも、鍵盤の高さがみな同じか、鍵盤と鍵盤の間の隙間が等間隔かということは見てわかることだが、それ以上となるととても手が届かない。そこで調律師の登場となるのだが、以上のことは、1年に1回、調律をして音の狂いを直すかたわら、すべてチェックして事前に防ぐことのできることばかりといっていい。人の定期検診が未然に大きな病気を防ぐのとまったく同じこと。そしてそれが、結果的には一番費用がかからない方法でもある。
 忘れずにしたおきたいことがある。調律後、内部を見て、アクションがすべて一直線に並んでいるのを確認しておこう。坂井さんは「鍵盤も、内部のアクションも同一、均一で、同じように連なっているのが本当で、美しくなければピアノではない」と言い切る。また、「ピアノの音は、基準になるAを合わせ、それを基に左右に合わせていくので、遠慮せずに調律がすんだら必ず音階を弾いて、Aからの音の広がりを自分で確かめてほしい」とも。最近は安価で性能のいいチューナーも普及しているので、積極的に利用してみるのもいいことで、一番怖いのは、狂った音に耳が慣れてしまうことだという。このあたり、心しておこう。

ピアノは100年持つそれも定期点検あればこそ

 西部ピアノでは、約200年前のピアノが同社の技術でよみがえり、現役で存在する(西部ミニ博物館展示)。実は、日本の4〜50年前以上のピアノは、今に比べ驚くほど原材料にお金をかけていた。響板の板目は狭いほど音伝達がいいといわれているが、それでは1本の木から取れる量はごく限られるため、現在ではなかなか使えない。同様に木よりプラスチックの部品、鉄の部品が多く使われるようになった。木は耳に心地よいが、それもままならないのが現状。実際のところチップ合板だったりもする。
 古いピアノは、使わないと邪魔になるし、日本ではメンテナンスの理解が希薄なことから、リユース(再利用)の機会が少ないが、本当はピアノは何年でも持つという。きちんとメンテナンスしていれば孫、ひ孫まで使える。保存、修理して次世代まで残すのが大事だし、そうして欲しいとピアノは願っている。

 

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